美術館や展覧会のニュースだけでなく、古代絵画の保存修復や考古学の新発見、絵本・版画・写真などの多彩な表現までを網羅!
+び。STATIONでは、国内外で起きているアートの動きから、気になるニュースをピックアップ。今回は、2026年10月12日時点の最新情報から12本を紹介します。
『何が起きたのか』だけでなく、どこが面白いのか、なぜ注目したいのかも一緒に見ていきましょう。
国内のART NEWS
1|東京国立博物館で大徳寺700年展へ―国宝14件と禅・茶の湯の名品が集結
京都・紫野の大徳寺が開創700年を迎える節目に、東京国立博物館で特別展「大徳寺 本朝無双之禅苑」が10月14日に開幕します。大徳寺は1326年、宗峰妙超(大燈国師)を開山として成立し、後醍醐天皇や戦国武将、千利休らと関わりながら発展しました。
展覧会には国宝14件、重要文化財69件を含む寺宝が集まり、中国南宋時代の牧谿による国宝《観音猿鶴図》や、普段は公開されない三門に安置された仏像・千利休像などが紹介されます。展示は前期と後期で大幅に入れ替わり、絵画・書・彫刻・茶道具を横断して大徳寺の歴史をたどります。禅寺の美術が、寺の内部だけでなく社会や文化の中でどのように育まれたかにも目を向けたい展覧会です。
開催場所:東京国立博物館 平成館(東京都台東区)
会期:2026年10月14日(水)〜12月6日(日)
ここがポイント
禅寺の宝物は、宗教美術の枠だけに収まりません。中国から伝わった水墨画は日本の絵画表現に影響を与え、茶の湯の道具は美意識と人々の交流を映しています。大徳寺では天皇・武将・茶人が交わり、文化が積み重なりました。前後期で展示が変わるため、同じ展覧会でも訪れる時期によって見られる作品が異なる点にも注意です。
参考:大徳寺展 公式サイト
2|法廷画と版画のあいだを探る―松元悠「イメージのあなた」黒部で開幕
富山県の黒部市美術館で、版画家・松元悠の個展「イメージのあなた」が10月10日に始まりました。松元はニュースや法廷画家としての活動で出会った事件を手がかりに、現地取材を重ね、他者の出来事と自身の視点を交差させるリトグラフを制作してきました。
本展では初期から新作まで約60点を「ニュースと版画」「法廷と版画」「運動と版画」など8つの区分で紹介。1918年に富山で起きた米騒動を題材にした作品も含まれます。石や金属の版を用いるリトグラフは、かつて報道画像を広める役割も担いました。情報を伝える画像と、目に見えない誰かの経験を想像させる絵画との境界を問い直す構成になっています。
開催場所:黒部市美術館(富山県黒部市)
会期:2026年10月10日(土)〜12月20日(日)
ここがポイント
法廷画は、写真撮影が制限される場の様子を人々に伝える画像です。しかし描き手が画面のどこを見せるかによって、伝わる印象は変わります。松元の版画では、事実を一枚の画像へ固定するのではなく、当事者を完全には理解できない距離そのものが題材になります。ニュースを「見る」ことの難しさを、美術の側から考える機会です。
参考:黒部市美術館 公式案内
3|「想像する力」は誰のもの?―渋谷でアール・ブリュット巡回展
東京都渋谷公園通りギャラリーで、アール・ブリュット2026巡回展「ソウゾウ・トレイニング!-ひきだす、つなぐ、この場所で-」が10月10日から始まりました。福島県猪苗代町の「はじまりの美術館」のキュレーター陣が注目する作家を選び、制作する人が自分の内側にある思いや感覚を引き出す力に焦点を当てます。
香川大介、清水ちはる、杉浦篤、田口BOSS、本田正、森陽香らの表現を紹介し、鑑賞者も想像力を働かせる場を目指します。第1会場は12月27日まで入場無料。2027年1月には港区立高輪区民センターへ巡回予定で、美術と生活の距離を縮める試みとしても注目されます。
開催場所:東京都渋谷公園通りギャラリー(東京都渋谷区)
会期:2026年10月10日(土)〜12月27日(日)
ここがポイント
「アール・ブリュット」は、既存の美術教育や制度の枠に収まりきらない創作を語るときに使われてきた言葉です。ただし、作家をひとまとめにするラベルとして捉えると、それぞれの表現の違いを見落としかねません。本展の「ソウゾウ」は作り手と見る人の双方に向けられた言葉。技法の上手さより、何が表現を生み出すのかに注目したい企画です。
参考:東京都渋谷公園通りギャラリー 公式案内
4|大阪・関西万博の体験を横浜へ―落合陽一《null²ⁿ》が常設化
落合陽一が手がける没入型作品《null²ⁿ(ヌルヌルネクサス)》が、10月14日から横浜ランドマークタワーに常設イマーシブシアターとして登場します。大阪・関西万博で公開された《null²》のシアター体験を核に、新たなゾーンを加えて再構成した作品です。
デジタルアバターと現実の身体、都市と自然の関係を探り、アプリ「Mirrored Body」と連携することで、万博で分身を取得した来場者は横浜でその分身に再会できると案内されています。会場を訪れて終わる一時的な展示ではなく、継続的なイベントやコミュニティ形成も想定。会場とオンラインの体験をつなぐ、デジタル時代の常設アートとしての展開です。
開催場所:横浜ランドマークタワー(神奈川県横浜市)
会期:2026年10月14日(水)から常設
ここがポイント
イマーシブ作品は、映像をただ眺めるのではなく、音・光・空間などに包まれながら体験する美術です。《null²ⁿ》はさらに、来場者自身のデジタルな分身を取り込もうとしています。作品を鑑賞する時間が一回限りではなく、場所を変えて続いていくとしたら、美術館や展示室の「作品の外側」はどこまで広がるのでしょうか。
参考:落合陽一 公式ポートフォリオ
5|北斎《冨嶽三十六景》は実は46図―MOA美術館が全図展示を予告
静岡県熱海市のMOA美術館が、2027年2月26日から「北斎 Red Fuji & Blue Wave −冨嶽三十六景−」を開催する予定です。《冨嶽三十六景》という題名から36点と思われがちですが、人気を受けて10図が追加され、実際のシリーズは全46図。本展ではその全図を一挙に展示します。
《神奈川沖浪裏》や《凱風快晴》は1億5000万画素の高精細画像として大画面に投影し、紙の繊維や摺りの技法まで見られるようにする計画です。さらに、江戸時代の浮世絵に描かれた場所の現在の風景を撮影し、作品と比較する展示も予定されています。よく知った一枚を、シリーズ全体と制作技術の両方から見直す企画です。
開催場所:MOA美術館(静岡県熱海市)
会期:2027年2月26日(金)〜4月2日(金)
ここがポイント
北斎の魅力は大胆な波や富士の形だけではありません。遠近感の作り方、青の重ね方、版木から紙へ絵具を移す摺りの加減など、版画としての技術が画面の印象を支えています。46図を続けて見ることで、同じ富士山を描きながら視点や天候、人々の営みを次々に変える発想も見えてきます。高精細画像は、その細部を観察する手がかりになります。
参考:MOA美術館 公式展覧会案内
6|【続報】高さ3メートルの絵が蛇腹絵本に―きくちちき「いきもの Rhapsody」
10月7日号で紹介した東京・立川の「絵本作家 きくちちき展 いきもの Rhapsody」。今回注目したいのは、会場を埋め尽くす巨大絵画が、一冊の絵本へと姿を変えたことです。展示のために描き下ろされた高さ3メートル・幅1.8メートルの原画30点から、新作絵本『いきものRhapsody』が生まれ、展覧会開幕日の10月7日に会場で発売されました。
新刊は蛇腹折りで、ページを一枚ずつめくるだけでなく、大きく広げて連続した絵として眺められる構造。表裏で異なる絵物語を楽しめる点も特徴です。展覧会では約150点の絵本原画や、これまで制作された約80冊の絵本も紹介。大きな絵から小さな本へ、そして再び展示空間へと、絵本の表現が行き来する面白さを伝えています。
開催場所:PLAY! MUSEUM(東京都立川市)
会期:2026年10月7日(水)〜12月13日(日)
ここがポイント
絵本は文章と絵を順に読むだけのものではなく、紙の折り方や広げ方そのものが鑑賞体験を変える表現です。30点の大型原画を蛇腹折りの一冊にまとめると、画面の大きさだけでなく、場面と場面のつながり方も変わります。会場の作品を歩いて見ることと、手元の本を広げて見ること。その違いに注目すると、絵本と現代美術の意外な近さが見えてきます。
参考:BlueSheep 新作絵本刊行案内
海外のART NEWS
7|2000年前の「二人の肖像」を修復―エジプトとイタリアが共同成果を公表
エジプト政府は10月11日、古代ファイユーム肖像画の一つ《二人の兄弟の肖像》の修復が、イタリアの専門家との協力で完了したと発表しました。ローマ支配期のエジプトでは、故人の生前の姿を描いた肖像画がミイラに取り付けられました。この作品は二人の人物を円形画面に描いた珍しい例で、紀元2世紀のものとされています。
顔料を溶かした蝋と混ぜて描くエンカウスティーク技法が用いられ、木地の虫害や表面の脆弱さに対応する保存修復が行われました。作品は11月にローマで始まるエジプト古代美術の展覧会に出品される予定です。修復は、絵をきれいにするだけでなく、古い技法を未来へ伝える作業でもあります。
ここがポイント
エンカウスティークは、顔料を蝋に混ぜて描く古い絵画技法です。光沢や肌の量感が生まれる一方、長い年月を経た木や絵具の層を安全に扱うには材料への理解が欠かせません。肖像画に残る細部は、古代の人々が他者の顔をどのように記録したかを教えてくれます。保存修復が進むことで、技術史と人間の生活史の両方に新しい手がかりが生まれます。
参考:エジプト政府 State Information Service
エジプト政府 State Information Service →
8|シチリアの古代都市で多彩色壁画を発見―ローマ期の建物の用途も再検討
イタリアの高等師範学校スクオーラ・ノルマーレ・スペリオーレは10月6日、シチリア島アグリジェントの「神殿の谷」周辺で、紀元前1世紀の彩色壁画片や漆喰装飾、建築部材を発見したと公表しました。出土したのは古代都市アクラガスの集会施設エクレシアステリオンの南側にある建物跡。
柱廊を囲む大きな空間があったと考えられ、壁画には古代ローマの第2・第3様式に分類される色彩や装飾が見られます。ただし建物が大規模な私邸だったのか、神殿と関係する公共的な柱廊だったのかはまだ研究中です。壁の断片から、都市の構造やローマ支配下での社会の変化を読み解こうとしています。
ここがポイント
古代遺跡の壁画は、壁からはがれた小さな破片でも重要な資料になります。彩色や装飾の型は制作時期を考える手がかりになり、柱や床の位置は建物の機能を推測する材料になります。今回の発表で研究者は用途を断定していません。この慎重さこそ考古学の大切な部分です。魅力的な「発見」の先には、複数の仮説を現場の証拠と突き合わせる地道な検証が続きます。
参考:Scuola Normale Superiore 公式発表
Scuola Normale Superiore 公式発表 →
9|漫画のような絵は、なぜ新しかった?―ホイットニー美術館でリキテンスタイン回顧展
ニューヨークのホイットニー美術館で10月11日、「Roy Lichtenstein: Like New」が開幕しました。ロイ・リキテンスタインは1960年代、漫画や新聞など印刷物の図像を大きな絵画へ作り替え、ポップアートの象徴となりました。
本展は1993年以来となるニューヨークでの本格的な回顧展で、絵画や素描、版画、彫刻、映像を通して約60年の制作を振り返ります。印刷の網点を思わせる画面も、実際には入念な手作業で構成されていました。再制作した壁画や初期の作品も取り上げ、単に漫画を拡大した画家ではなく、画像が繰り返され、見え方が変わる仕組みを研究した作家として紹介します。
開催場所:ホイットニー美術館(米国・ニューヨーク)
会期:2026年10月11日(日)〜2027年5月10日(月)
ここがポイント
「ベンデー・ドット」と呼ばれる印刷風の点は、一見すると機械的で感情のない表現に見えます。でも、リキテンスタインはその規則性を絵画として計算し直しました。既存の画像を借り、切り取り、別の文脈に置くと意味がどう変わるのか。SNSで画像が複製・加工・再投稿される現在にもつながる問いです。近づいて筆跡を見たくなる展覧会です。
参考:Whitney Museum of American Art 公式展覧会案内
Whitney Museum of American Art 公式展覧会案内 →
10|集める人であり、作る人だった―ギュスターヴ・ファイエ約500点をパリで再評価
パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで10月9日、「Gustave Fayet: Collector–Designer. Icons of Modern Art」が開幕しました。ギュスターヴ・ファイエは19世紀末から20世紀初頭にかけて活動した美術収集家であり、自らも絵画や装飾芸術の制作を行った人物です。
展覧会は、ファイエが集めた近代美術と、本人の創作活動を二つの側面から紹介。ファン・ゴッホやゴーギャンらの作品を含め、館の全空間を使って約500点を紹介すると案内しています。美術史は名を残した作家だけでできているわけではありません。何を選び、誰を支え、作品とどう暮らしたかという収集家の行動も、近代美術の姿を形作ってきたことが見えてきます。
開催場所:フォンダシオン ルイ・ヴィトン(フランス・パリ)
会期:2026年10月9日(金)〜2027年3月8日(月)
ここがポイント
コレクターというと完成した名画を買い集める人という印象があるかもしれません。しかしファイエは自分でも制作し、作家と交流しながら新しい表現を支えました。何が集められ、どう保存され、後世へ伝わるかは、美術史の見え方に直結します。作品そのものに加えて、それを選び取った人の感性や時代背景を知ると、近代美術の地図は少し違って見えます。
参考:Fondation Louis Vuitton 公式展覧会案内
Fondation Louis Vuitton 公式展覧会案内 →
11|布に埋もれる肖像は何を語る?―シンディ・シャーマン新作がロンドンに
ロンドンのハウザー&ワースで10月13日、写真家シンディ・シャーマンの新作展が開幕します。初公開される「Fabric Matrons」シリーズでは、複雑に重ねられた布や装飾に人物が包まれ、ときに背景と溶け合うように見えます。
衣装や化粧、演出によって女性像を作り上げ、社会が期待する役割を問い続けてきたシャーマン。今回は高級服飾ブランド、シャネルのアーカイブから取り入れた布地なども使い、年齢によって変化する女性の見られ方や、装いと自己像との関係を探ります。美しいファッション写真に見えて、どこか居心地の悪さを残す。その違和感が、写真の中の「人物」を誰が作っているのか考えさせます。
開催場所:Hauser & Wirth London(英国・ロンドン)
会期:2026年10月13日(火)〜12月23日(水)
ここがポイント
シャーマンの写真に登場する人物は、作家自身が演じる架空の存在です。つまり「自分を写す写真」でありながら、単純な自画像ではありません。布や化粧は装飾であると同時に、人にどう見られたいか、社会からどう見られるかを調整する道具です。画面に漂う不自然さは、私たちが日々当たり前だと思っている「美しい人の姿」を問い返します。
参考:Hauser & Wirth 公式展覧会案内
12|古代モザイクは誰が描き、どう残す?―プリンストンに研究者が集結
米国のプリンストン大学美術館で10月9日・10日、古代モザイクと壁画をめぐる国際研究会が開かれました。テーマは「New Research on Ancient Mosaics and Wall Painting: Historical Context and Modern Presentation」。米国や欧州、トルコなどの専門家が参加し、古代アンティオキアの床モザイクに繰り返し現れる模様、作者の手をどう見分けるか、ポンペイの壁画の解釈、現代の美術館で古代の作品をどう展示するかなどが議題となりました。
同館には1930年代の発掘に由来するアンティオキアのモザイクも所蔵されています。模様の読み解きと保存・展示の方法を一緒に考える機会となりました。
ここがポイント
モザイクは色石やガラスなどの小片を並べて作る絵です。完成すると一枚の床や壁になりますが、破片の形や並べ方には職人ごとの癖が残る可能性があります。研究会ではそうした制作上の手がかりに加え、発掘された作品を元の建物から切り離して展示することの意味も論点になりました。今回紹介するのは研究会の議題であり、新しい結論が確定したという発表ではありません。
参考:Princeton University Art Museum 公式研究会案内
Princeton University Art Museum 公式研究会案内 →
まとめ
きょうの12本を見渡すと、美術は「出来上がった作品を眺めること」だけでは終わらないとわかります。エジプトの古代肖像画は修復によって次の世代へ受け渡され、シチリアの色鮮やかな壁画片は、古代都市についての理解を少しずつ書き換えています。どちらも作品を残すための調査や、慎重な解釈が欠かせません。
一方、リキテンスタインとシンディ・シャーマンは、身近な画像や装いが私たちの見方をどれほど左右するかを問いかけます。松元悠の版画やアール・ブリュットの展覧会にも、見えない他者をどう想像するかという共通点がありそうです。
10月7日号からの続報として紹介した、きくちちきの新作絵本も印象的です。展示空間を埋める巨大な絵が、手元で広げる蛇腹折りの本になる。その変化は「美術」と「絵本」を分けて考える必要があるのか、という問いにもつながります。
開創700年の大徳寺展や北斎46図の公開計画は、長い年月を経た美術を新しい角度から見る機会。デジタル技術で鑑賞体験を広げる《null²ⁿ》も、その延長線上で考えられます。時代も地域も異なる作品に触れながら、画像が作られ、伝わり、残されていく過程にも目を向けてみてください。
