美術館や展覧会のニュースだけでなく、デザイン、映像、パブリックアート、アート市場までを網羅!
+び。STATIONでは、国内外で起きているアートの動きから、気になるニュースをピックアップ、今回は、2026年10月9日時点の最新情報から12本を紹介します。
『何が起きたのか』だけでなく、どこが面白いのか、なぜ注目したいのかも一緒に見ていきましょう。
国内のART NEWS
1|新出仏像を含む30体を比較―浜松市美術館「みほとけのキセキⅢ」
浜松市美術館では10月10日から、企画展「みほとけのキセキⅢ―三・遠・駿 神仏オールスター☆―」が開催されます。遠州(静岡県西部)と東三河(愛知県東部)に、今回は駿河地域を加えた仏教彫刻の展覧会です。展示されるのは仏像と神像の計30体。最新の調査研究によって新たに見いだされた像や、従来とは異なる知見が得られた像も含まれます。寺院に伝わる彫刻は、信仰の対象であると同時に、地域の文化交流を伝える資料でもあります。たとえば表情、衣のひだ、立ち姿、木材の扱いなどを並べて見ると、時代や土地による造形の違いが浮かび上がります。作品を集めることで、個々の寺院だけでは見えにくかった歴史に光を当てる試みです。
開催場所:浜松市美術館
会期:2026年10月10日〜12月6日
ここがポイント
今回の焦点は、単に珍しい仏像を集めることではありません。「いつ、どこで造られ、どのように伝わったのか」という問いを、複数の作品を比較して考える点にあります。仏像の衣や手足の形に注目すれば、専門知識がなくても違いを発見できます。新出作例が既存の美術史をどのように補うのかも見どころです。地域による形の違いもじっくり比べたいところです。
参考:浜松市
2|拓本、印影、写本を見比べる―大谷大学博物館が「文字の諸相」展
京都の大谷大学博物館で10月10日、特別展「捺す 摺る 写す―文字の諸相―」が始まります。文字の歴史を、文章の内容だけでなく、紙や石、印章に文字を残す技法から考える展示です。たとえば「拓本」は、石碑などに刻まれた文字の凹凸を紙と墨で写し取ったもの。「印影」は印章を押した跡で、「写本」は人の手で書き写された本を指します。出品予定の資料には、中国・唐代の碑文を後世に写し取った宋時代の拓本や、1931年に押された《漢委奴国王印鈐本》などがあります。後者は有名な金印そのものではなく、印を押して残した資料です。文字を読むだけでなく、形やかすれ方、複製の方法を鑑賞する展覧会といえます。
開催場所:大谷大学博物館(京都)
会期:2026年10月10日〜11月28日
ここがポイント
印刷技術が広がる前から、人々は同じ文字を何度も伝える方法を工夫してきました。拓本は石碑の表面を、印影は印の形を、写本は筆跡とともに情報を残します。それぞれの違いは、現代の印刷や複製技術にもつながる問題です。書道を「上手な字」として見るだけでなく、文字の物質的な歴史を知る入口になります。墨色や紙の質感にも注目できます。
参考:大谷大学
3|美術、工芸、パフォーマンスが天王洲に集結―MEET YOUR ART FESTIVAL
東京・天王洲で10月9日から12日まで、「MEET YOUR ART FESTIVAL 2026」が開催されます。主催者によれば150名以上のアーティストが参加し、展覧会、アートフェア、パフォーマンス、トーク、マーケットなどが街の各所に展開されます。森山未來がアーティスティック・ディレクターを務める展覧会「REFLUX たちのぼる兆し」では、身体的な表現と現代美術の接点にも注目できます。また、国内外の作家を扱うアートフェア「MEET YOUR ARTISTS」「CO-CROSSOVER」も予定されています。ただし10月9日はマーケットとライブのみの開催で、美術展示エリアは終日内覧会。一般来場者が展覧会やフェアを鑑賞できるのは10月10日からです。
開催場所:東京・天王洲運河一帯(寺田倉庫ほか)
会期:2026年10月9日〜12日
ここがポイント
美術館の展示とは異なり、このイベントでは作品を見ること、作家と出会うこと、購入すること、身体を使った表現を体験することが隣り合っています。アートフェアは作品の売買の場でもあり、現在活動する作家を知る入口でもあります。訪問する場合は、10月9日と10日以降で公開エリアが異なる点を確認しておきたいところです。
参考:MEET YOUR ART FESTIVAL
MEET YOUR ART FESTIVAL 公式サイト →
4|演劇とテクノロジーが交わる26日間―「秋の隕石2026東京」が開幕
東京・池袋の東京芸術劇場などで10月9日、舞台芸術祭「秋の隕石2026東京」が始まります。11月3日までの期間中、国内外から13作品を集めたパフォーマンス・プログラムに加え、講演やワークショップも実施されます。芸術監督は劇作家・演出家の岡田利規。演劇を中心に据えながら、ダンス、音、映像、技術を使った表現にも目を向ける催しです。観客が作品を見るだけでなく、制作の考え方に触れられるプログラムや、来場を支える取り組みも設けられています。絵画や彫刻と違って形が残りにくい舞台芸術ですが、その場で立ち上がる身体や時間の使い方も、現代の重要な芸術表現です。観客もまた俳優と同じ空間にいて、瞬間ごとに変化する舞台に立ち会うことになります。
開催場所:東京芸術劇場、GLOBAL RING THEATREほか(東京・池袋)
会期:2026年10月9日〜11月3日
ここがポイント
「美術」は物として残る作品だけではありません。俳優の動き、声、照明、映像、空間の配置を組み合わせる舞台芸術も、見る人の感覚や社会への問いを形にします。初めて触れる方は、物語を理解することだけに集中せず、舞台上の時間の流れや身体の動きに注目すると、普段の演劇とは違う楽しみ方ができます。説明に頼りすぎず、まず感覚で受け止めてみましょう。
参考:東京芸術祭実行委員会
5|ロダンと「具体」を結ぶ二人の収集家―兵庫県立美術館でコレクション展
兵庫県立美術館で10月10日、「松方幸次郎×山村德太郎 蒐集のパッション―ロダンを日本へ、具体を世界へ」が始まります。松方幸次郎は約100年前、ヨーロッパで西洋美術を買い集め、日本に美術館をつくる構想を持っていました。そのコレクションの一部が国立西洋美術館の出発点になっています。一方、山村德太郎は1950年代から作品を収集し、やがて戦後日本の前衛美術、とくに「具体美術協会」に注目しました。今回は国立西洋美術館と兵庫県立美術館の所蔵品が向き合い、ロダンの彫刻と、伝統的な描き方を大胆に変えた戦後の作品が紹介されます。作品を未来に残した収集家の役割にも光を当てます。
開催場所:兵庫県立美術館 1階展示室
会期:2026年10月10日〜12月27日
ここがポイント
美術館の作品は、最初から公共の財産だったわけではありません。誰かが価値を信じて買い集め、守り、寄贈してきた結果、私たちが見られるものも多くあります。松方と山村の関心は時代も対象も異なりますが、まだ十分に知られていない作品を次の世代へ伝えようとした点は共通します。収集家を手がかりに、美術館そのものの歴史を見直せる展示です。
参考:兵庫県立美術館
海外のART NEWS
6|フェルメールの代表作2点は本人の手によるものか―新論文が再検討
オランダ美術史の学術誌『Journal of Historians of Netherlandish Art』の2026年最新号で、研究者アドリアーン・ワイボアがフェルメール作品の作者帰属を再検討する論文を発表しました。対象はベルリンにある《ワイングラス》と、アムステルダム国立美術館の《恋文》です。研究者は筆づかい、人体や布の描き方、ほかのフェルメール作品から借用されたように見える構図を比較し、両作が本人ではなく工房周辺で制作された可能性を論じています。《恋文》には署名があり、特に慎重な判断が必要だとしています。これは新たな学説の提示であり、所蔵館が作者名を正式に変更したというニュースではありません。原論文も、断定ではなく研究者個人の評価であると明記しています。
ここがポイント
「真贋」は絵具の成分だけで決まるとは限りません。同じ時代の画家や工房では材料や図柄を共有することがあり、筆の運び、光の扱い、描き直しの特徴も比べます。今回の論文は、長く定説とされた作品でも検討が続くことを示しています。
フェルメールの作品数が減ったと結論づけるのではなく、今後の科学調査や研究者間の議論に注目したい話題です。
参考:Journal of Historians of Netherlandish Art
7|《夜警》の肌色に隠れた顔料―X線分析の限界と青い絵具を研究
オランダの文化財研究機関NICASは10月8日、レンブラント《夜警》の科学調査について二つの研究発表を行いました。一つは人物の肌色に使われた黄土・赤土系の顔料が、分析方法によって検出されにくくなる問題です。広い範囲にX線を当てて元素を調べるMA-XRFでは、明るい肌の部分で鉛の反応が強い一方、鉄の反応が乏しいことがありました。しかし別の分光法では、鉄を含む土系顔料の兆候が捉えられています。もう一つは、青い顔料「スマルト」を含む微小試料を立体的に分析した研究です。粒子の大きさや元素組成には試料内部でも差があり、原料の違いと経年変化などを区別する必要があります。いずれも保存修復に役立てるための研究です。
ここがポイント
MA-XRFは、絵に含まれる元素がどこに多いかを調べる方法です。ただし、元素が検出されないことが、その顔料を使っていない証拠になるとは限りません。重なった絵具や材料の割合が結果に影響するためです。研究者は再現した絵具の試料も比較しています。一つの機器だけで判断せず、複数の調査方法を組み合わせることが重要です。
参考:NICAS(Netherlands Institute for Conservation, Art and Science)
8|海底の王宮跡から古代灯台の図像―アレクサンドリアで指輪型印章を発見
エジプト・アレクサンドリア東港の水中発掘で、古代の大灯台を刻んだ青銅製の指輪型印章が見つかりました。調査チームが10月7日に発表したもので、灯台の図像を持つこの種類の指輪としては初めて確認された例だといいます。発掘場所は、かつて王宮地区の一部だったアンティロドス島の水没遺跡。指輪に表された塔の姿には、紀元2世紀の貨幣に残る図像と共通する特徴があります。大灯台は古代世界で名高い建造物ですが、現存しないため、その外観や当時の位置づけを知るには小さな遺物も貴重な資料になります。王宮周辺に行政機能があった可能性も調査チームは指摘していますが、指輪の持ち主や使い道まで判明したわけではありません。
ここがポイント
発見の価値は、海底から珍しい品物が出たことだけではありません。指輪の絵柄を貨幣などの資料と比べ、出土した王宮跡との位置関係も考えることで、失われた建造物と都市の歴史を検討できます。考古学では「何が描かれているか」と同じくらい「どこから出たか」が重要です。小さな工芸品が都市全体を研究する手がかりになる好例です。
参考:Franck Goddio/欧州水中考古学研究所(IEASM)
9|30ドルで買われた絵が135万ドルに―再発見されたアバクロンビー作品
米国の競売会社フリーマンズは、ガートルード・アバクロンビーの1951年の絵画《Alderman Merriam’s Shells》が10月1日の競売で135万2,600ドルで落札されたと発表しました。作品は約75年間、公の場から姿を消していましたが、今年ミシガン州の遺品販売会で発見され、わずか30ドルで購入されていました。絵には暗い背景と灰色の台の上の貝殻、糸で吊られた一つの貝殻が描かれています。購入者は展覧会図録の古い新聞写真から同じ絵を見つけ、研究者による確認を受けました。今回の落札額は同画家の競売記録を更新しましたが、それ以上に、過去の写真や展覧会記録が失われた作品の同定を助けた過程が注目されます。
ここがポイント
競売価格の大きさだけを見てしまいがちですが、この話には美術史研究の基本があります。署名を確かめ、当時の展覧会写真と照合し、専門家が制作の特徴や来歴を検討することです。作者が実物の貝殻を観察して描いていたことも研究上の発見でした。作品の価値は市場だけで決まるのではなく、確かな資料によって理解が深まることで変わっていきます。
参考:Freeman’s
10|小さな工芸に宿る大きな文化―スミソニアンが先住民のミニチュア展を発表
米スミソニアン協会は10月8日、ニューヨークの国立アメリカ・インディアン博物館で開催する展覧会「Mighty Miniatures」を発表しました。11月21日からの展示では、南北アメリカやハワイの先住民コミュニティによるミニチュア作品300点以上を紹介します。博物館には1,300点以上のミニチュア資料が所蔵されており、その一部が選ばれる形です。人形、小さな器、かご、玩具などは、見た目の愛らしさだけでなく、制作技術や生活文化、知識を次の世代へ伝える役割を担ってきました。小さなサイズであっても素材を選び、編み、成形し、装飾する工程には高度な工芸技術が使われます。作品を通して、文化を誰が、どのように伝えてきたかも問う展覧会です。
開催場所:国立アメリカ・インディアン博物館 ニューヨーク館
会期:2026年11月21日〜2027年8月20日
ここがポイント
ミニチュアは単なる縮小模型ではありません。遊び道具として使われたり、作り方を伝える教材になったり、工芸品として収入につながったりします。作品が小さいからこそ、編み目や模様、素材選びの細かさが際立ちます。ひとつの文化を一括りにせず、地域や制作者ごとの違いを見ていくことも大切です。小さな形には、その土地ならではの技術が詰まっています。
参考:Smithsonian National Museum of the American Indian
11|1990年代の英国は何を変えたか―テートで美術とファッションを横断
ロンドンのテート・ブリテンで10月8日、「The 90s: Art and Fashion」が開幕しました。1990年代の英国では、現代美術、写真、ファッション、雑誌、クラブ文化が互いに刺激し合い、新しい視覚表現を生み出しました。本展は元『Vogue』編集者エドワード・エニンフルが企画に関わり、トレイシー・エミンやサラ・ルーカスらの美術、ユルゲン・テラーらの写真、アレキサンダー・マックイーンなどの服飾表現を横断して紹介します。華やかな「クール・ブリタニア」の印象だけでなく、その時代の社会やアイデンティティーをどう表現したかが焦点です。一方、展覧会をファッション寄りとする批評もあり、ジャンルを横断する展示の難しさ自体が議論を呼んでいます。
開催場所:テート・ブリテン(英国・ロンドン)
会期:2026年10月8日〜2027年2月14日
ここがポイント
ファッション写真や雑誌のページも、時代の美意識を形づくります。美術館で服と絵画を並べると、作品の背景にある社会や若者文化が見えてきます。ただし、ジャンルを混ぜれば必ず深い展示になるわけではありません。何をつなぎ、何が展示から抜け落ちているのかを考えることも、文化を鑑賞する面白さです。展覧会の構成自体も考える対象です。
参考:Tate Britain
12|抽象画の前にあった「描く行為」―アムステルダムでデ・クーニング展
アムステルダムのアムステルダム国立美術館(ライクスミュージアム)で10月9日、「Willem de Kooning at Work」が始まります。オランダで生まれ、1926年に渡米したウィレム・デ・クーニング(Willem de Kooning)は、戦後ニューヨークの抽象表現主義を代表する画家です。本展が中心に据えるのは、120点を超える素描。初期の習作から晩年に近い制作まで、線を引き、消し、描き直す過程をたどります。絵画や彫刻も紹介し、《Woman I》《Woman and Bicycle》は名誉の間に展示される予定です。完成した抽象画だけを見るのではなく、形が変化していく途中の「描く行為」そのものを作品として捉える企画です。
開催場所:アムステルダム国立美術館(Rijksmuseum、オランダ)
会期:2026年10月9日〜2027年1月17日
ここがポイント
抽象画は、何を描いたのか分からないと感じることもあります。しかしデ・クーニングの作品では、線を繰り返し引き、修正し、偶然の形を生かす行為そのものが重要でした。素描は完成絵画のための単なる下書きではなく、思考を動かす場でもあったのです。120点以上の線の変化を追えば、抽象表現が突然現れたのではなく、長い試行錯誤から生まれたことが伝わります。
参考:Rijksmuseum
まとめ
今日の12本を通して見えてくるのは、美術作品を理解するための入口が、完成した作品の鑑賞だけではないということです。浜松の仏像や京都の文字資料では、素材と技法に注目することで、文化の伝わり方を考えられます。フェルメールの作者帰属をめぐる新論文や《夜警》の顔料研究は、よく知られた名作でさえ調査と議論が続いていることを示します。海底遺跡から現れた指輪と再発見された絵画では、小さな手がかりと古い記録の照合が歴史を動かしました。一方、天王洲のアートフェスや東京の舞台芸術祭、英国のファッション展からは、美術が身体表現や暮らしの文化ともつながっていることが分かります。ロダンと「具体」を支えた収集家の選択、デ・クーニングの線を引いては描き直す営みも、美術が生まれ、残され、次の時代に受け渡される過程を教えてくれます。作品そのものだけでなく、その周囲にある人や技術、時間にも目を向けると、アートを楽しむ視野はさらに広がりそうです。
