美術館や展覧会のニュースだけでなく、デザイン、映像、パブリックアート、アート市場までを網羅!
+び。STATIONでは、国内外で起きているアートの動きから、気になるニュースをピックアップ、今回は、2026年10月10日時点の最新情報から13本を紹介します。
『何が起きたのか』だけでなく、どこが面白いのか、なぜ注目したいのかも一緒に見ていきましょう。
国内のART NEWS
1|お墓に納めた「小さな家」が語る古代中国―愛知県陶磁美術館で「夢見る建築」
愛知県陶磁美術館で10月10日、企画展「夢見る建築―中国古代の明器に宿る建築の断片」が始まります。中心となるのは、古代中国の墓に納められた建物や生活設備の陶製模型「建築明器」です。現実の建物を小さく写したような楼閣や井戸、カマドに加え、トイレ付きの豚小屋まで登場します。
今回は建築家・茂木計一郎のコレクション約70点が18年ぶりに一斉展示され、陶磁器に描かれた空想上の建物や現代陶芸も合わせて約120件を紹介。死後の暮らしを願う気持ちと、自由な想像から生まれた建築の形を見比べられます。壮大な宮殿だけでなく、当時の人々の身近な暮らしにも近づける展示です。
開催場所:愛知県陶磁美術館 本館 展示室1-A・地下展示室
会期:2026年10月10日〜12月20日
ここがポイント
「明器」とは、死後の世界で使うことを願って墓に副葬された模型などのこと。木造建築が残りにくい時代でも、陶製の家から屋根の形や部屋の造りを推測できる場合があります。ただし、模型をそのまま実際の家の縮図だと決めつけることはできません。信仰のために理想化された部分も考えながら見ると、歴史資料と美術作品の二つの顔が浮かび上がります。
参考:愛知県陶磁美術館
2|日本初のフルカラー漫画雑誌『東京パック』―原画96点から見る100年前の社会
目黒区美術館で10月10日、コレクション展「『東京パック』とその時代」が開幕します。『東京パック』は1905年に石版四色刷りを使って創刊された、日本初のフルカラー漫画雑誌。政治や国際情勢、都市の流行、庶民の暮らしを、ユーモアや風刺を交えた絵で伝えていました。
展覧会では1920〜30年代に描かれた第3次・第4次『東京パック』の原画96点を中心に公開します。関東大震災後の復興や世界恐慌の時代を、人々がどう見ていたかも読み取れそうです。創刊者・北澤楽天の生誕150年を記念し、子ども向け絵雑誌『子供之友』の原画も紹介。漫画を娯楽だけでなく、社会を記録する絵として見直す機会になります。
開催場所:目黒区美術館(東京都目黒区)
会期:2026年10月10日〜11月15日
ここがポイント
「風刺画」は、世の中の出来事や人物を誇張し、笑いや皮肉を通して考えさせる絵です。今のSNSで見かける一コマ漫画にも通じる表現ですが、100年前は印刷技術そのものが新しい驚きを生みました。展示される原画と印刷された雑誌を想像してみると、線や色が紙面に届くまでの工夫にも気づけます。北澤楽天の子ども向けの絵との違いにも注目です。
参考:目黒区美術館
3|ムーミンの生みの親は画家でもあった―神戸でトーベ・ヤンソンの約300点
神戸市立博物館で10月10日、「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」が始まります。フィンランドのトーベ・ヤンソン(1914〜2001年)は、ムーミンの物語で知られますが、若い頃から画家を志し、油彩画や風刺画、壁画にも取り組んでいました。展覧会はヘルシンキ市立美術館の協力を得て、その創作を約300点で振り返ります。
初期の自画像、戦争前後の風刺画、小説やコミックスの原画、スケッチ、愛用品などを紹介。病院や保育園の壁画制作についても、フィンランドでの研究成果をもとに光を当てます。親しみ深いキャラクターの背景に、絵を描くことを生涯続けた一人の美術家が見えてきます。
開催場所:神戸市立博物館(兵庫県神戸市)
会期:2026年10月10日〜12月13日
ここがポイント
ムーミンを「かわいいキャラクター」として知っている人ほど、油彩画や風刺画との違いが新鮮に映るはずです。風刺画は時代の不安や怒りを短い絵に込める表現。物語の挿絵では、少ない線で性格や感情を伝えます。同じ作家が用途によって描き方を変えていたことに注目すると、絵本と美術館の絵画が地続きの創作として見えてきます。
参考:神戸市立博物館
4|『日曜美術館』が放送50年―大阪で名作140点超と過去の映像を紹介
1976年に始まったNHKの美術番組「日曜美術館」が、2026年に放送50年を迎えました。10月10日から大阪中之島美術館では「NHK日曜美術館50年展」が開幕。番組で取り上げられてきた約60作家・140点を超える作品を、五つの章に分けて紹介します。縄文の造形から現代美術まで、時代もジャンルも幅広い構成です。
作品と並んで見られるのは、歴代の出演者が美術について語った映像や、高精細な映像資料。番組は2026年3月、週刊のファインアート番組としての最長放送でギネス世界記録に認定されました。美術作品だけでなく、それを伝える言葉や映像の歴史も鑑賞の対象になります。
開催場所:大阪中之島美術館 5階展示室(大阪府大阪市)
会期:2026年10月10日〜12月20日
ここがポイント
美術の感じ方は、作品を前にした本人の経験だけでなく、誰かの言葉や映像によっても広がります。一方で、解説が唯一の「正解」になるわけではありません。番組の出演者がなぜその作品に心を動かされたのかを知り、自分ならどこを見るか考えるのも楽しみ方の一つ。50年続く番組の歴史を通して、美術を伝える方法そのものを考えられます。
参考:NHK日曜美術館50年展 公式サイト
5|猫を描けば画家の個性が見える―秋野不矩から約40人の「猫愛」展
浜松市秋野不矩美術館で10月10日、特別展「猫愛に包まれる―秋野不矩から現代作家による猫たち―」が始まります。秋野不矩(1908〜2001年)はインドの風景を描いた日本画家として知られますが、日常をともにした猫も作品や素描、文章に残しました。今回は秋野の猫を出発点に、近現代の約40人の作家が描いた猫の表現を紹介します。
堀文子、朝倉摂、木下晋らの作品に加え、箱根・芦ノ湖 成川美術館、郷さくら美術館、藤沢市の「招き猫亭コレクション」からも出品。毛並みやしぐさを丁寧に捉えたものから、自由でユーモラスな姿まで、同じ猫という題材に向けられた違ったまなざしが集まります。
開催場所:浜松市秋野不矩美術館(静岡県浜松市)
会期:2026年10月10日〜11月23日
ここがポイント
猫の絵は、画家ごとの違いを見つけるのにぴったりです。輪郭をはっきり描く人もいれば、毛並みを細かく追う人、姿勢だけで性格を感じさせる人もいます。秋野不矩の作品と文章を合わせて見れば、観察の対象が日々の暮らしと深くつながっていたことも分かります。「どの猫が好きか」という素朴な感想から、描き方の違いを探してみましょう。
参考:浜松市秋野不矩美術館
6|84点中81点が初来日―上野でシンシナティ美術館の西洋近代美術を公開
東京・上野の森美術館で10月10日、「シンシナティ美術館展~アメリカに渡ったヨーロッパの至宝~」が開幕します。米国オハイオ州のシンシナティ美術館から来日する84点のうち、81点が日本初公開。コロー、クールベ、セザンヌ、モネ、ファン・ゴッホ、ピカソらの絵画と、ドガなどの彫刻を通して、近代ヨーロッパ美術の変化をたどります。
例えばモネの《ベリールの岩場、ポール=ドモワ》は、荒々しい海岸線と変わり続ける光を捉えた1886年の作品。こうした絵が大西洋を渡った背景には、米国の収集家たちの活動があります。同館の所蔵品には、地域の女性収集家から寄贈された作品も少なくありません。
開催場所:上野の森美術館(東京都台東区)
会期:2026年10月10日〜2027年1月10日
ここがポイント
「81点が初来日」とは、その作品が日本で初めて公開されるという意味で、世界で新発見されたわけではありません。古典的な描き方から印象派、キュビスムまでを見比べると、画家たちが光や形をどう捉え直したかが分かります。また、名画は作家だけでなく、買い集めて守ってきた人々によって美術館へ届いたという点も重要です。
参考:シンシナティ美術館展 公式サイト
7|手描きの模様が布になるまで―富山県美術館で「つぐ minä perhonen」
富山県美術館で10月10日、展覧会「つぐ minä perhonen」が始まります。ミナ ペルホネンは、皆川明が1995年に始めた活動を原点とするファッション・テキスタイルブランド。2025年に創設30周年を迎えました。手で描かれた図案から布をつくり、服やインテリアへ展開するものづくりを、貴重な原画や完成した製品を通して紹介します。
刺繍、織り、プリントの工場の様子も見どころです。同じ模様でも、糸で織るか、布に色を刷るかによって表情が変わります。デザイナーの発想が職人との対話や試作を経て製品になるまでを追い、流行だけに左右されず長く使うことの意味を考える展覧会です。
開催場所:富山県美術館 2階 展示室2・3・4(富山県富山市)
会期:2026年10月10日〜12月22日
ここがポイント
「テキスタイル」は布や繊維素材、そこに施す模様などを指す言葉です。服のデザインは完成品の形だけで決まるのではなく、糸の太さや織り方、刺繍の密度でも大きく変わります。原画と実際の布を見比べると、二次元の線が手触りのあるものへ変わる工夫が見えるはずです。身に着けるものを美術館で見る理由が少し近く感じられます。
参考:富山県美術館
8|草間彌生やイケムラレイコも参加―東京湾岸の街を巡る「TOKYO ATLAS」
国際美術展「TOKYO ATLAS」が10月10日、東京の台場・青海・天王洲で開幕します。美術館の展示室だけでなく、公園、海辺、倉庫、ビルなど都市のさまざまな場所を会場にする展覧会です。東京都の発表では、草間彌生やイケムラレイコら国内外の作家が参加。東京都が支援してきた若手作家やキュレーターによる企画「座標」も展開します。
会場には台場公園、お台場海浜公園、テレコムセンタービル、WHAT MUSEUMなどが含まれます。「ATLAS」は神話上の存在の名であり、地図帳を意味する言葉でもあります。作品をたどりながら、普段通り過ぎる都市の風景を違う角度から眺め直す試みです。
開催場所:東京・台場、青海、天王洲エリア各会場
会期:2026年10月10日〜12月20日
ここがポイント
特定の場所の景色や歴史、建物の特徴に関わってつくられる表現を「サイトスペシフィック」と呼ぶことがあります。作品だけを見るのではなく、周囲の海や空、建築との関係にも注目すると、鑑賞の楽しさが広がります。会場は広い範囲に分かれ、青海の地下駐車場展示には時間予約が必要です。訪問前に公式案内を確認してください。
参考:TOKYO ATLAS 実行委員会・東京都
海外のART NEWS
9|宇宙で厄介な「原子状酸素」を絵画修復へ―欧州MOXYの研究成果
イタリアのピサ大学は10月6日、欧州研究プロジェクト「MOXY」が、作品に直接触れずに表面の汚れを除去する技術を開発したと発表しました。使うのは「原子状酸素」。宇宙空間で人工衛星の材料を傷めることでも知られる、反応性の高い酸素です。研究チームはこの性質を逆に利用し、すすなどの炭素を含む黒い付着物を二酸化炭素に変える方法を検討しました。
ピサ、ベルギーのゲント、オランダのアイントホーフェンに試作装置が置かれ、さまざまな素材で試験を進めています。水や溶剤、物理的な摩擦を避けられる場合がある一方、技術はまだ初期段階。すべての作品に使える万能な修復法というわけではありません。
ここがポイント
普通の空気中の酸素は、酸素原子二つが結びついた分子です。「原子状酸素」は原子一つの状態で反応しやすく、黒い汚れに作用します。保存修復では、汚れだけを落として絵具や支持体を残すことが難題です。新技術も、作品の材料や過去の修復履歴を調べたうえで使えるか判断します。安全性の検証と既存の方法との使い分けが今後の鍵になります。
参考:ピサ大学
10|盗まれたルノワールの絵画2点が見つかる―フランスで6人を逮捕
フランス南部カーニュ=シュル=メールのルノワール美術館から盗まれていた絵画2点が発見され、10月9日に容疑者6人の逮捕が報じられました。作品はピエール=オーギュスト・ルノワールによる《マダム・コロンナ・ロマーノの肖像》と《井戸の若い女》。9月8日、侵入者が柵や窓を破って館内に入り、絵を持ち去っていました。
当初は計4点が運び出されたものの、2点は逃走時に現場付近へ残され、残り2点の捜索が続いていました。美術館はルノワールが晩年を過ごした住居に設けられた施設で、地域の文化的な記憶とも結びついています。発見は朗報ですが、回収後の作品の状態や詳しい捜査経緯については続報を待つ必要があります。
ここがポイント
盗難の被害は絵の市場価格だけでは測れません。作品が展示や研究から失われること、運搬時に傷つく危険があることも大きな問題です。発見された絵が無事かどうかは保存状態の確認が必要です。また、容疑者の逮捕は有罪判決を意味しません。事件を通して、美術館が鑑賞の場所であると同時に文化財を守る施設でもあることが分かります。
参考:AP通信(現地当局の発表を報道)
11|現代美術と古典美術が同じ公園に―ロンドン「Frieze」が開幕へ
ロンドンのリージェンツ・パークで10月14日から18日、「Frieze London」と「Frieze Masters」が開催されます。主催者によると、両会場合わせて48の国・地域から300弱のギャラリーが参加予定。現代作家の新作を扱うFrieze Londonと、古代から20世紀に至る美術を扱うFrieze Mastersが並び、作品売買と美術史の研究を結びつけます。
2026年には大衆文化を形づくる仕組みを扱う「The Code Universe」や、近代美術史を別の視点から読み直す「Queering Modernism」などの企画も登場。巨匠の作品を売買する市場でありながら、見落とされてきた作家や資料に注目する場にもなっています。14日は招待者向けの内覧日で、一般公開は15日からです。
開催場所:リージェンツ・パーク(英国ロンドン)
会期:2026年10月14日〜18日(一般公開は15日から)
ここがポイント
アートフェアは複数のギャラリーが作品を紹介・販売する催しで、入札によって落札者を決めるオークションとは仕組みが異なります。出品作を理解するには、作者だけでなく制作年、来歴、修復の有無なども重要。今回の企画には美術史の従来の枠組みを見直す試みも含まれます。価格だけではなく「なぜ今この作品を見直すのか」にも注目できます。
参考:Frieze 公式発表
12|傷ついた英雄は何を語る? バーゼリッツ初期の人物画がロンドンに集結
ロンドンのギャラリー、タデウス・ロパックで10月13日から、ドイツの画家ゲオルク・バーゼリッツによる展覧会「The Heroes 1965–66」が始まります。取り上げるのは、戦後の社会で居場所を失ったような人物を、大きく荒々しい筆致で描いた1965〜66年の「英雄」シリーズです。勝者をたたえる英雄像とは違い、破れた服や不安定な姿勢に傷ついた時代の気配がにじみます。
テート、ベルリン市立美術館などの主要コレクションから作品が集まり、英国で初めてこのシリーズだけに焦点を当てた展覧会となります。作品を通して、戦争の記憶と向き合いながら人物像を描く意味を問い直します。
開催場所:タデウス・ロパック Ely House(英国ロンドン)
会期:2026年10月13日〜12月18日
ここがポイント
バーゼリッツは後年、上下を逆さにした絵で知られるようになりますが、「英雄」はそれ以前の重要な作品群です。人物が堂々と立っていないのは、描く技術が未熟だからではありません。戦後ドイツの不安や断絶を、人物の姿として表そうとしたと考えられます。顔だけでなく、衣服、手足の大きさ、周囲の余白に注目すると、言葉にならない重さを感じ取れます。
参考:Thaddaeus Ropac
13|美術館に「音の彫刻」が現れる―テート・モダンでタレク・アトウィ新作
ロンドンのテート・モダンで10月13日から、美術家で作曲家のタレク・アトウィによる新作が公開されます。会場は、かつて発電所だった建物の大空間「タービン・ホール」。毎年この場所のための作品を依頼する「ヒョンデ・コミッション」の第11回です。レバノン生まれのアトウィは、音を聞くだけでなく、素材や装置の振動を身体で感じる表現を追究してきました。
これまでにガラス、水、陶器などを使い、演奏家や職人と協働して独自の楽器を制作。音を生む装置そのものが彫刻のように見えることも特徴です。10月10日時点では開幕前のため、完成作の具体的な仕掛けは実際の公開を待って確認する必要があります。
開催場所:テート・モダン タービン・ホール(英国ロンドン)
会期:2026年10月13日〜2027年4月11日
ここがポイント
音を素材にする美術は「サウンド・アート」と呼ばれます。コンサートのように決められた席で聞くとは限らず、会場を歩く位置や周囲の反響で体験が変わることもあります。アトウィの制作では、楽器を演奏の道具であると同時に、形を鑑賞する立体作品として捉えられます。目と耳の両方で作品を味わうという、美術館の新しい楽しみ方に注目です。
参考:Tate/Hyundai Motor 共同発表
まとめ
今日の13本を通して見えてくるのは、美術の入口が一つではないということです。古代中国の小さな家の模型や『東京パック』の風刺画には、その時代を生きた人々の暮らしや願いが残されています。トーベ・ヤンソンの絵、約40人が描く猫、モネやセザンヌの作品は、同じ「絵を描く」という行為にも実に多様な表現があることを教えてくれます。
一方、『日曜美術館』の50年は美術を伝える言葉や映像の力を、ミナ ペルホネンのテキスタイルは手描きの線と職人の技術を、TOKYO ATLASは作品と都市のつながりを見せてくれます。
海外では、原子状酸素による保存修復の研究やルノワール作品の発見が、作品を未来へ守り継ぐ難しさを浮かび上がらせました。Friezeの市場、バーゼリッツの戦後の人物像、アトウィの音の彫刻にも、それぞれ異なる問いがあります。いつもの美術館に足を運ぶときも、作品の背景にある制作、研究、収集、保存という営みを少し意識してみたいですね。
