美術館や展覧会のニュースだけでなく、作品の新発見、美術史研究、来歴調査までを網羅!
+び。STATIONでは、国内外で起きているアートの動きから、気になるニュースをピックアップ。日曜版では、2026年10月5日〜11日の1週間から、特に注目したいART NEWSを5本振り返ります。
「何が起きたのか」だけでなく、どこが面白いのか、なぜ注目したいのかも一緒に見ていきましょう。
国内のART NEWS
1|『日曜美術館』が放送50周年! 美術を伝え続けた名番組の歴史を大阪で振り返る
1976年に放送を開始したNHKの美術番組『日曜美術館』が、2026年に50周年を迎えました。これを記念した「NHK日曜美術館50年展」の大阪会場が、10月10日に大阪中之島美術館で開幕しました。番組で紹介されてきた140点を超える名品を5つの章で展示。絵画や彫刻、工芸などを通して、日本と世界の多彩な美術表現を振り返ります。
会場では、作品だけでなく、これまで番組に出演した人々の言葉を記録した放送映像も紹介。高精細映像も交えながら、50年間にわたって美術の魅力を伝えてきた番組の歩みをたどります。作品を鑑賞することと、その魅力を誰かに伝えること。その両方を考える展覧会です。
開催場所:大阪中之島美術館 5階展示室(大阪府大阪市)
会期:2026年10月10日〜12月20日
ここがポイント
美術作品を前にして「どこを見ればいいのかわからない」と感じたことはないでしょうか。『日曜美術館』は、美術家や研究者、文化人などの言葉を通して、作品へのさまざまな入口を紹介してきました。同じ絵でも、歴史を知って見るのと、自分の経験に重ねて見るのとでは感じ方が変わります。番組の50年を振り返ることは、私たちの美術との向き合い方を見直す機会にもなりそうです。
参考:NHK日曜美術館50年展 公式サイト
2|日本初のフルカラー漫画雑誌『東京パック』―100年前の原画96点を一挙公開
10月10日、東京の目黒区美術館で「『東京パック』とその時代」が開幕しました。『東京パック』は1905年に創刊された、日本初のフルカラー漫画雑誌です。石版四色刷りという印刷技術を使い、政治や国際情勢、流行、庶民の暮らしなどを、色鮮やかな風刺漫画で伝えていました。
展覧会では、美術館が所蔵する1920〜30年代の原画96点を中心に公開。関東大震災後の復興から世界恐慌、戦争へ向かう時代を、当時の人々がどのように見つめていたのかを紹介します。また、創刊者・北澤楽天の生誕150年を記念して、子ども向け絵雑誌『子供之友』の原画も展示。大人に向けた社会風刺と、子どもに向けた親しみやすい絵の両方に触れられます。
開催場所:目黒区美術館(東京都目黒区)
会期:2026年10月10日〜11月15日
ここがポイント
風刺画とは、政治や社会の出来事を誇張したり、ユーモアを交えたりして描き、見る人に考えさせる絵のことです。現代の一コマ漫画やSNSのイラストにも通じますが、100年前には印刷によって色鮮やかな絵を広く届けること自体が画期的でした。漫画はいつから現代的なメディアになったのか。原画を通して、絵を描く技術と、それを社会へ届ける仕組みの両方を考えられる展覧会です。
参考:目黒区美術館
海外のART NEWS
3|海底に眠る宮殿から「アレクサンドリアの大灯台」を描いた指輪を発見
10月7日、エジプトのアレクサンドリア沖で行われている水中考古学調査から、注目の発見が発表されました。見つかったのは、古代世界の七不思議の一つ「アレクサンドリアの大灯台」の姿が刻まれた青銅製の印章指輪です。
発見場所は、かつて王宮地区の一部だったアンティロドス島の海底遺跡。欧州水中考古学研究所(IEASM)が調査を進める中で見つかりました。大灯台を描いた印章指輪としては、現在知られている最初の例とされます。指輪の浮き彫りには、2世紀頃の硬貨に見られる大灯台の図像と共通する特徴があります。調査チームは、発見された宮殿の一部が灯台の管理に関わっていた可能性にも注目しています。
ここがポイント
アレクサンドリアの大灯台は古代の巨大建築として知られていますが、建物そのものは失われており、当時の姿を完全に知ることはできません。そこで重要になるのが、硬貨や彫刻などに残された図像です。今回の指輪も、失われた建物の姿を伝える小さな資料の一つ。なお、2世紀の硬貨と図像が似ているからといって、指輪自体の制作年代が確定したわけではありません。
参考:Franck Goddio/欧州水中考古学研究所(IEASM)
4|宇宙技術が美術品を救う? 触れずに汚れを落とす保存修復技術を開発
イタリアのピサ大学は10月6日、欧州共同研究プロジェクト「MOXY」が開発した、美術作品を非接触で洗浄する新技術を発表しました。使われるのは「原子状酸素」と呼ばれる反応性の高い酸素です。宇宙空間では人工衛星などの素材を傷める原因になりますが、その性質を逆に利用し、作品に付着したすすなどの汚れを除去します。
従来の保存修復では、スポンジでこすったり、溶剤を使ったりする方法が必要になる場合があります。今回の技術では、原子状酸素を作品の表面に当て、炭素を含む黒い付着物を反応によって二酸化炭素に変えます。研究チームはピサ、ゲント、アイントホーフェンに試作装置を設置し、絵画、紙、布、石材などの材料で試験を重ねています。
ここがポイント
原子状酸素は、通常の酸素分子とは異なり、酸素原子が一つの状態になったものです。反応しやすい性質を利用して、作品の表面にある特定の汚れを取り除きます。特に注目したいのは、表面をこすらずに洗浄できること。傷みやすい作品では、接触そのものが危険になる場合もあります。ただし、すべての材質に安全というわけではなく、研究はまだ初期段階。従来の修復技術に加わる新たな選択肢として期待されています。
参考:ピサ大学(University of Pisa)
5|盗まれたルノワールの絵画2点が発見! フランスで容疑者6人を逮捕
フランス南部カーニュ=シュル=メールのルノワール美術館から盗まれていた絵画2点が発見され、10月9日に容疑者6人の逮捕が報じられました。見つかったのは、ピエール=オーギュスト・ルノワールの《マダム・コロンナ・ロマーノの肖像》と《井戸の女》(1886年頃)です。
事件が起きたのは9月8日。侵入者が早朝に美術館へ押し入り、作品4点を持ち出しました。このうち2点は逃走中に放棄され、残る2点の捜索が続いていました。4点はすべて、パリのオルセー美術館が管理し、1995年からルノワール美術館に貸与されていた作品です。今回の発見は大きな進展ですが、作品の保存状態や発見までの詳しい経緯については、今後の確認が必要です。
ここがポイント
今回の事件には、美術品の来歴に関する重要な背景もあります。盗まれた2点は、第二次世界大戦後に回収された美術品のうち、正当な所有者への返還に向けて調査が続けられる「MNR」という区分に含まれます。この区分の作品は、フランスの国立美術館が暫定的に管理しており、通常の国有コレクションとは法的な位置づけが異なります。MNRだからといって、すべてがナチスによる略奪品と確定しているわけではありません。作品の発見と同時に、その来歴を考えることも大切です。
参考:The Art Newspaper/オルセー美術館・フランス文化省のMNR記録
まとめ
今週の美術ニュースからは、作品の価値が、描かれたものの美しさだけで決まるわけではないことが見えてきます。海底から発見された小さな指輪は、失われた古代建築の姿を考える手がかりになりました。一方、原子状酸素による保存修復の研究は、過去から受け継いだ作品を現代の科学で未来へつなぐ可能性を示しています。
盗まれたルノワール作品の発見は朗報ですが、作品がどのような歴史を経て受け継がれてきたのかという、来歴の問題にも目を向ける機会になりました。国内では、『東京パック』の原画から約100年前の社会の姿を読み取り、『日曜美術館』の50年からは、美術を伝える言葉や映像の力を改めて考えることができます。
作品を調べる、守る、伝える。そして、それを楽しむ。それぞれ違う出来事ですが、どれも美術と私たちの距離を少し近づけてくれる話題だったのではないでしょうか。
今日のアート
クララ・ペーテルス《チーズ、アーモンド、プレッツェルのある静物》

画像出典:Wikimedia Commons(Clara Peeters – Still Life with Cheeses, Almonds and Pretzels.jpg)/Public Domain
所蔵館クレジット:Mauritshuis, The Hague
1615年頃/マウリッツハイス美術館(オランダ)
テーブルには、積み重ねられたチーズ、くるくるとしたバター、プレッツェル、アーモンド、ドライフルーツ。クララ・ペーテルスは食べ物の質感を驚くほど細かく描き分けています。手前のナイフの刃には、まるで彫り込まれたかのように画家の署名が見えます。ナイフの柄に施された装飾から、これは結婚祝いに贈られる特別な品だったこともわかります。
ところが、この絵にはもう一つの「署名」が隠されています。チーズの奥に置かれた陶器の水差し。その金属製のふたをよく見ると、白い帽子をかぶった女性の顔が小さく映り込んでいます。描いたのは画家自身。静物画の中に、ひそかに自画像を忍ばせているのです。
17世紀初頭、女性が職業画家として活躍する機会は限られていました。ペーテルス自身の生涯についても詳しい記録は多くありません。それでも、食べ物の見事な描写と、金属への映り込みを利用した工夫は今も見る人を引きつけます。何気ない食卓に見えて、描く技術と遊び心が詰まった一枚です。
参考:マウリッツハイス美術館、Wikimedia Commons
