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ART NEWS 5選【2026年10月第4週】|+び。STATION増刊号

美術館や展覧会のニュースだけでなく、パブリックアート、ぬりえ・イラストレーション、メディアアート、建築、コンセプチュアルアートまでを網羅!

+び。STATIONでは、国内外で起きているアートの動きから、気になるニュースをピックアップ。今週は2026年10月19日(月)〜25日(日)の動きから、国内3本・海外2本のART NEWS 5選をお届けします。

「何が起きたのか」だけでなく、どこが面白いのか、なぜ注目したいのかも一緒に見ていきましょう。

国内のART NEWS

1|空に巨大な顔が帰ってくる!―5年ぶりの《まさゆめ》、今度は奥多摩の山あいにも出現

東京都は10月23日、文化芸術祭「ARTE TOKYO」の追加企画として、現代アートチーム・目[mé]による《まさゆめ》の実施を発表しました。実在する一人の人物の顔を巨大な立体物にして空へ浮かべる作品で、2021年の東京での実施から5年ぶりに帰ってきます。

今回の舞台は、奥多摩町と代々木公園。11月21・22日は山々を背景に、12月5・6日は都心の公園の上空に、巨大な顔が現れる予定です。奥多摩での実施時間は午後、代々木公園では早朝から午前中。どちらも荒天時は中止となり、別に予備日が設けられています。

背景が山か街か、空の明るさや距離によって、同じ顔の見え方は大きく変わるはずです。都の発表日は10月23日であり、作品の実施そのものは11月と12月。日常の風景に突然現れる巨大な「誰か」が、いつもの景色の印象を変えます。

開催場所:奥多摩町・代々木公園(東京都)
会期:奥多摩町=2026年11月21日(土)・22日(日)/代々木公園=12月5日(土)・6日(日)※荒天中止・予備日あり

ここがポイント

上空に人の顔が現れたら、私たちはまず「なぜここに?」と考えるでしょう。美術館の展示室とは違い、この作品には偶然通りかかった人も出会います。目[mé]が変えるのは空そのものではなく、いつもの景色を眺める私たちの感覚です。山あいと都会という対照的な二つの舞台を比べると、作品は物体の形だけでなく、その背景や出会い方によっても成り立っていることが見えてきます。

参考:東京都「ARTE TOKYO 3つの特別企画を追加発表」(2026年10月23日)

東京都の公式発表 →

2|「きいちのぬりえ」は現代のかわいいの原点?―一般公開されなかった肉筆画34点が渋谷に集結

東京・渋谷のNANZUKAで10月24日、蔦谷喜一の個展「曽田コレクション」が開幕しました。戦後、駄菓子屋などで売られた「きいちのぬりえ」を手がけた画家による、一般公開されてこなかった肉筆画34点が並びます。

展示作は1985年頃から日本画の技法で描かれた「童女百態シリーズ」。絹に表された少女たちは、丸い顔、大きな瞳、小さな身体を持ち、ぬりえで知られる親しみやすい線が、絵画としての緻密さと結びついています。作品は収集家の曽田大資が長年保管してきたものです。

蔦谷は戦前に日本画を学び、1947年に「きいちのぬりえ」で人気を集めました。今回の展覧会は、昭和の思い出としてのぬりえだけでなく、近代の美人画から現代のキャラクター文化へとつながる表現を考える機会でもあります。

開催場所:NANZUKA(東京都渋谷区)
会期:2026年10月24日(土)〜11月28日(土)/日曜休廊

関連記事|10月22日号「きいちのぬりえ」

ここがポイント

今の漫画やイラストで見慣れた大きな瞳や丸い輪郭は、突然生まれたものではありません。蔦谷の少女像には日本画の技法と、誰もが楽しめる大衆的な絵の感覚が同居しています。しかも今回は印刷されたぬりえではなく、絹に描かれた肉筆画が中心。線の勢いや色の重なりを直接見ることで、単なる懐かしさを超えた造形の魅力が伝わりそうです。「かわいい」の歴史を美術からたどる入口になります。

参考:NANZUKA「蔦谷喜一個展 ~曽田コレクション~」公式展覧会案内

NANZUKAの公式展覧会ページ →

3|糸に映像を投影すると、風景がほどけていく?―松戸で「小宇宙を編む」芸術祭

千葉県松戸市で10月24・25日、国際フェスティバル「科学と芸術の丘2026」が開かれています。今年のテーマは「Weaving the Microcosmos―小宇宙を編む」。戸定邸や戸定が丘歴史公園などの歴史ある場所で、科学とアートを横断する作品を紹介します。

注目したいのは、穴井佑樹のインスタレーション《layers》。幾重にも張られた糸へ光と映像を重ね、異なる土地や時間の自然、記憶が混ざり合うような風景を生み出します。ほかにも、自然由来のインクを用いる表現や、市民とともに土や環境を考えるプロジェクトが登場します。

本日25日には穴井本人のアーティストトークも予定されています。作品をただ眺めるだけでなく、身体を動かしたり、作家の話を聞いたりしながら、身近な世界を新しい角度から見る二日間です。

開催場所:戸定邸、松雲亭、戸定が丘歴史公園ほか(千葉県松戸市)
会期:2026年10月24日(土)〜25日(日)/25日は10:00〜16:00

ここがポイント

映像のスクリーンは平らなもの、という思い込みが《layers》では崩れます。糸の重なりに投影された光は、見る位置によって奥行きや輪郭を変えます。科学も芸術も、当たり前に見えるものを別の角度から観察する営みです。古い邸宅や庭園に現代の映像や自然素材の作品を置くことで、建物が積み重ねてきた時間まで表現の一部になります。小さな仕組みに目を向ける楽しさがある芸術祭です。

参考:松戸市「科学と芸術の丘2026」公式発表(2026年10月16日)

松戸市の公式発表 →

海外のART NEWS

4|絵が大きすぎて展示できない!―高さ11メートルの絵画のために建物をつくってしまった

ドイツ・キュンツェルザウで、アンゼルム・キーファーの巨大絵画《Schwarze Flocken(黒い雪片)》のためだけにつくられた展示館が話題になっています。作品は2007年制作で、高さ約11.2メートル、幅7.1メートル。収集家ラインホルト・ヴュルトが2008年に購入しましたが、大きすぎて従来の展示室には収まりませんでした。

そこで建築家デイヴィッド・チッパーフィールドが、キーファー本人と協力して専用パビリオンを設計。作品の寸法に合わせ、入口の位置や壁の色、自然光を取り込む天窓まで考えられました。建物は10月13日に開館し、今週22日に海外メディアでも紹介されました。

《黒い雪片》は詩人パウル・ツェランの詩に着想を得た作品。重い歴史と記憶を抱える一枚を、静かな空間でじっくり鑑賞できるようになりました。

開催場所:Museum Würth 2・アンゼルム・キーファー・パビリオン(ドイツ・キュンツェルザウ)
会期:2026年10月13日(火)公開開始/常設パビリオン

ここがポイント

大きな絵を展示室へ運ぶのではなく、絵に合わせて展示室を建てる。普通とは逆の発想が、この企画の核心です。しかも必要なのは単なる高さではありません。建物の入口から絵へ近づく順番、光の変化、壁との距離まで、鑑賞体験を左右します。キーファーが素材や歴史の重みを重ねた作品と、チッパーフィールドの抑制された建築。その二つを切り離さずに味わえる、新しい鑑賞の場が生まれました。

参考:David Chipperfield Architects「Anselm Kiefer pavilion」公式プロジェクト案内

David Chipperfield Architectsの公式紹介 →

5|禁酒を続けた時間が、落ちそうなコインになる―2026年マルセル・デュシャン賞が決定

フランス・パリで10月22日夜、2026年マルセル・デュシャン賞の受賞者が発表されました。選ばれたのは、ベルギー出身のダヴィッド・ブロニョンと、ルクセンブルク出身のステファニー・ロランによる作家デュオ「Brognon Rollin」です。

受賞作は、ゲームセンターのコイン落とし機を使ったインスタレーション。機械の中にあるのは普通の硬貨ではなく、アルコールなどへの依存から回復する人々が、飲酒を控え続けた期間などの節目に受け取る記念メダルです。メダルはゆっくり押し出され、落ちるか落ちないかの境界を動き続けます。

さらに回復の途上にある人が、遠隔操作で展示空間の照明を変える仕組みもあります。候補者4組の作品は、パリ市立近代美術館で2027年2月7日まで無料公開されています。

開催場所:パリ市立近代美術館(フランス・パリ)
会期:2026年10月2日(金)〜2027年2月7日(日)/候補作家展

関連記事|10月23日号「2026年マルセル・デュシャン賞」

ここがポイント

コイン落とし機なら、普通はメダルが落ちる瞬間に期待します。しかし、この作品に使われるメダルは誰かが一日、一週間、一年と積み重ねた回復の時間を表しています。遊びのような動きが、突然、危うさや重みを帯びるのです。会場の光も当事者の感情によって変化します。人の経験を単純な成功談として説明する代わりに、時間の長さと揺れを物や光で感じさせる表現が印象的です。

参考:Le Monde「Brognon and Rollin duo win 2026 Marcel Duchamp contemporary art prize」(2026年10月22日)

Le Mondeの受賞報道 →

まとめ

今週の5本を並べると、美術は「何を描くか」だけでは決まらないことが見えてきます。目[mé]の《まさゆめ》は、空に現れた巨大な顔によって、いつもの景色を夢のような場所へ変えます。蔦谷喜一の肉筆画は、子どもたちが親しんだぬりえの線を、現代のキャラクター文化へつながる表現として見直すきっかけになります。

松戸では、糸が映像のスクリーンとなり、異なる土地や時間の記憶を重ねます。ドイツでは、展示できなかった大きな絵のために、建築そのものを作品へ合わせてつくりました。パリでは、回復の時間を刻むメダルをコイン落とし機に入れることで、見慣れた遊びの仕組みに別の意味が生まれています。

空、糸、絹、建築、ゲーム機。材料も場所も違いますが、どれも日常にあるものの見方を少し変える試みです。身近なものほど、新しい発想の入口になるのかもしれません。

今日のアート|街の音が、四角になった? モンドリアン《ブロードウェイ・ブギウギ》

モンドリアン《ブロードウェイ・ブギウギ》。白い画面に黄色の格子状の線と赤・青・灰色の小さな四角形が並ぶ抽象絵画。
ピート・モンドリアン《ブロードウェイ・ブギウギ》(Broadway Boogie Woogie)、1942〜43年、油彩・カンヴァス、127×127cm、ニューヨーク近代美術館所蔵
(原画像:Wikimedia Commons/Public Domain)

黄色い線が縦横に走り、その上を赤や青の小さな四角が跳ね回る。道路の地図にも、音符が並ぶ楽譜にも見えるこの絵は、オランダ出身の画家ピート・モンドリアンがニューヨークで制作した《ブロードウェイ・ブギウギ》です。

モンドリアンは1940年、戦争を逃れてニューヨークへ渡りました。そこで魅了されたのが、大都会の街並みと、軽快なピアノのリズムを特徴とするブギウギという音楽です。それまでの作品に多かった太い黒線は姿を消し、黄色い帯のなかに赤、青、灰色の小さな四角形が並びます。その一つ一つが、街を行き交う車や、弾む音符のようにも感じられます。

「抽象画は何が描いてあるかわからない」と思ったら、意味を探す前に目でリズムを追ってみてください。色から色へと視線が移り、まるで画面が動いているような感覚が生まれます。静かな正方形のなかに、にぎやかな街の時間が流れている。そんな一枚です。

参考:ニューヨーク近代美術館(MoMA)公式作品解説/画像:Wikimedia Commons(Public Domain)

ニューヨーク近代美術館の公式作品解説 →