美術館や展覧会のニュースだけでなく、廃材からつくる絵の具、和紙盆栽、現代甲冑、野鳥写真、テキスタイル彫刻、街の祭壇、映像・サウンドアートまでを網羅!
+び。STATIONでは、国内外で起きているアートの動きから、気になるニュースをピックアップ。2026年10月27日(火)は、国内6本・海外8本の計14本をお届けします。
「何が起きたのか」だけでなく、どこが面白いのか、なぜ注目したいのかも一緒に見ていきましょう。
国内のART NEWS
1|フグの尾ビレも、沖永良部島の軽石も絵の具に!―全国を旅して230種類の色を集めた画家
全国をキャンピングカーで旅し、各地で集めた廃材や自然素材を絵の具に変える画家・綾海(あやみ)が、11月7日から東京・渋谷で「廃材から描く展2026」を開催します。10月26日に発表された今回の展示では、新作6点を含む約20点の絵画と、これまでに集めた230種類以上の顔料を紹介。注目したいのは、絵の具の原料です。山口県下関のフグの尾ビレ、秋田県の伝統的な紫根染に使われる灰や紫根、沖永良部島の赤土、夜光貝、漂着した軽石まで登場します。沖永良部島の素材を使った新作《クジラは今も泳ぐ》では、島で出会った人々の言葉や、海を訪れるザトウクジラを題材にしています。絵を描く前に、その土地の素材と歴史を集めることから始まる制作です。
開催場所:TCU Shibuya PXU(東京都渋谷区道玄坂)
会期:2026年11月7日(土)〜11月15日(日)/10:00〜19:00
ここがポイント
普通、画家は絵の具の色を選びます。しかし綾海は、まず旅先で素材を探し、土地の人の話を聞いてから絵の具をつくります。琵琶湖の時間を8層の絵具で表した作品など、色そのものに土地の記憶を込める発想が特徴です。特に、厄介者になりがちな漂着軽石を絵画の材料に変えた点が興味深いところ。捨てられるものを見る目まで変わりそうです。
参考:株式会社ArtArium「廃材から描く展2026」開催発表(2026年10月26日)
2|木に見えるのに、実は和紙!―厚さ0.03ミリの紙から生まれた「石付き盆栽」
本物の松が岩に根を張っているように見える作品が、東京・渋谷で展示されています。盆栽作家・眞利子大輔が制作した《匠景 -SHOKEI-「磐座 -IWAKURA-」》です。10月26日に始まった「LuVLEE Artwork Project」に出展された新作で、作家にとって初めての「石付き」の和紙盆栽となります。石付きとは、岩に根を張る樹木の姿を生かした盆栽の形式。作品では、厚さわずか0.03ミリの土佐和紙を一枚ずつ重ねて黒松の姿を表し、鉢には日本の帯の織物を使っています。テーマは「ONE LOVE」。岩に根を張る松の姿に、文化の違いを越えて共に生きる願いを重ねました。生きた樹木を育てる盆栽とは異なる、紙による造形表現です。
開催場所:SHIBUYA SAKURA STAGE 3階(東京都渋谷区)
会期:2026年10月26日(月)〜11月2日(月)/10:00〜22:00
ここがポイント
盆栽は生きた植物を育てる芸術ですが、和紙でつくれば水や日光に左右されず、枝ぶりや古木の表情を別の方法で追求できます。それでも作者は盆栽作家。木のどこに重みがあり、根がどう岩をつかむかという知識が造形に生かされています。本物らしく見せる技術だけでなく、生きていない紙に「長く生きた木」の気配を宿らせようとする点が面白い作品です。
参考:株式会社眞庄「和紙盆栽『匠景』初の石付き作品」発表(2026年10月24日)
3|好きな花の絵を、封筒に入れて贈る!―今村文がつくる「言葉の代わりの花束」
東京・渋谷のOIL by 美術手帖ギャラリーで10月30日、今村文による新プロジェクト「花言葉」が始まります。10月26日に発表された企画の中心は、花の絵を鑑賞するだけでなく、一輪を選び、言葉の代わりに誰かへ贈るという試みです。今村は、半透明のグラシン紙に水彩画を重ねるコラージュや、熱で溶かした蜜蝋と顔料を使う「エンコスティック」という技法で、植物を表現してきました。今回、過去のインスタレーション作品から選ばれた花の絵は、購入時にグラシン紙の封筒へ収められます。花束のように手渡しても、箱にしまってもよいという自由な楽しみ方です。作家が以前から温めていた「言葉の代わりに花を」という発想が、具体的な展示形式になりました。
開催場所:OIL by 美術手帖ギャラリー(東京都渋谷区・渋谷PARCO 2階)
会期:2026年10月30日(金)〜11月23日(月・祝)/11:00〜21:00
ここがポイント
絵画は壁に飾って鑑賞するもの、という決まりはありません。小さな花の作品を選び、半透明の封筒に入れて渡せば、作品は人と人の間を行き来するものになります。グラシン紙の透ける質感も、植物の繊細さとよく響き合う素材です。贈る相手がいなくても、自分のために一輪を選ぶことができます。作品の大きさではなく、どう受け取るかまで考えられた企画です。
参考:CCC ART LAB「今村文『花言葉』」公式発表(2026年10月26日)
4|甲冑に宝石を散りばめる!?―ロンドンの感性と京都の職人技が出会った現代アート
かつて戦場で身体を守るために用いられた甲冑が、現代の彫刻へと姿を変えています。甲冑アーティストSAVI(サヴィ)が、11月6日から東京・南青山で個展「静寂の護符」を開催すると10月26日に発表しました。作品のデザインはロンドンのアトリエで生まれ、京都の甲冑師の手で形になります。使われる素材は漆、西陣織、絹、革、組紐、金属、貴石など。高さ180センチの甲冑から手のひらサイズの造形まで、幅広い作品を紹介します。イタリアのジュエラー、パオロ・ペンコとの共作《PENKO SAVI》では、左右非対称の甲冑に宝飾の輝きを組み合わせました。伝統的な武具を「守ることの美しさ」という視点から捉え直しています。
開催場所:松葉屋茶寮(東京都港区南青山)
会期:2026年11月6日(金)〜11月10日(火)/11月6日17:30以降は招待制、7日以降一般公開
ここがポイント
甲冑の魅力は、強い材料で身体を守る機能と、威厳を示す装飾が一体になっていることです。そこへジュエリーの繊細さを加えると、強さと美しさの関係が変わって見えます。SAVIの作品では、現代的な色彩や構成を取り入れながら、実際の甲冑職人の技術が重要な役割を担います。伝統工芸を模様だけ借りるのではなく、制作技術ごと未来につなげる試みです。
参考:オリナス株式会社「SAVI EXHIBITION — 静寂の護符 —」公式発表(2026年10月26日)
5|46年前のフィルムから最新デジタル作品まで!―野鳥写真家・嶋田忠が追った「命の一瞬」
北海道の野鳥を撮り続けてきた写真家・嶋田忠の作品展「WILD MOMENT カムイの国の鳥たち」が、11月6日からソニーイメージングギャラリー銀座で開催されます。今回展示されるのは、46年前に撮影したフィルム作品から2026年のデジタル作品までを含む写真です。嶋田は1980年に北海道へ移住し、カワセミやアカショウビン、シマフクロウなど、鳥たちの生きる瞬間を追い続けてきました。作品は、10月に刊行された同名の写真集から選ばれています。写真機材は長い時間をかけて変化しましたが、被写体となる鳥たちの動きは人間の都合に合わせてくれません。野生の一瞬を待ち続ける撮影姿勢そのものが伝わる展示です。
開催場所:ソニーイメージングギャラリー銀座(東京都中央区)
会期:2026年11月6日(金)〜11月19日(木)/11:00〜19:00
ここがポイント
野鳥写真の面白さは、鳥が美しく写っていることだけではありません。どの瞬間にシャッターを切るかによって、羽ばたきの力強さや、周囲の環境との関係が変わります。46年前のフィルムと現在のデジタル写真を見比べることは、撮影技術の進歩を知る機会にもなります。同時に、道具が変わっても簡単には得られない、長年の観察と自然への理解の重要さに気づかされます。
参考:ソニーイメージングギャラリー銀座「嶋田忠作品展」公式案内
6|紙のコップに漆を塗ると14グラムの工芸品に!―京都の技術が日常の道具を変える
京都のクロスホテル京都で11月6日から、伝統工芸の新しい使い方を紹介する「Discover Japanese Craft」が開催されます。10月26日に発表された今年の企画では、京都のブランドCOCOOと、創業160年以上の京和傘の老舗・日吉屋が登場。COCOOの《KOMLA ki-urushi》は、紙を土台に天然漆を施したカップで、重さはわずか14グラム。洗剤で洗って繰り返し使うこともできます。また日吉屋は、和傘の構造を応用した照明やミニ和傘をつくる体験を11月21日に開催。紅葉や銀杏をあしらった和紙を選び、職人と一緒に制作します。伝統的な技術を、美術館にしまうのではなく、現代の生活で使える造形へつなげる企画です。
開催場所:クロスホテル京都 1階ロビーラウンジ(京都府京都市)
会期:COCOO展示=2026年11月6日(金)〜11月30日(月)/日吉屋の制作体験=11月21日(土)
ここがポイント
漆器には重くて扱いがむつかしいという印象があるかもしれません。しかし、紙と漆を組み合わせれば、軽さと耐久性を両立する別の道具が生まれます。和傘も、雨を防ぐ道具としてだけでなく、骨組みや和紙を通して光を見せる照明になります。伝統工芸の魅力を残すには、昔の形をそのまま守る以外の方法もある。素材の特性を生かした工夫に注目したい企画です。
参考:オリックス・ホテルマネジメント株式会社「Discover Japanese Craft」公式発表(2026年10月26日)
海外のART NEWS
7|マンハッタンに巨大な花の祭壇!―亡くなった人への思いを市民が持ち寄るアート
アメリカ・ニューヨークのマンハッタンで10月26日、巨大な花をかたどった公共作品《Twenty Petal Flower》の展示が始まりました。これはメキシコの「死者の日」に合わせて設置された「オフレンダ」と呼ばれる祭壇。メキシコのMestiz Studioがデザインし、ブルックリンのPowerhouse Artsとの協力で制作されました。幾重にも重なる大きな花の造形は、死者の魂を導くとされるマリーゴールドをもとにしています。単に眺めるだけの彫刻ではなく、訪れた人が大切な故人への手紙や思い出の品などを持ち寄れることが特徴です。街を歩く人々の記憶が加わることで、作品の意味も少しずつ広がっていきます。
開催場所:Flatiron North Plaza(アメリカ・ニューヨーク市マンハッタン)
会期:2026年10月26日(月)〜11月3日(火)
ここがポイント
花の形をした巨大彫刻は、それだけでも人目を引きます。しかし《Twenty Petal Flower》は、見物する人が参加することで完成に近づく作品です。亡くなった人を思う行為は個人的なものですが、公共の広場で誰かの記憶と隣り合えば、別の意味が生まれます。祭壇をつくる職人の技術と、参加者の思いが一つになる。街の中で成長していく作品として注目したい試みです。
参考:Hyperallergic「Giant Ofrenda Arrives in Manhattan Ahead of Día de Muertos」(2026年10月26日)
8|パズルの裏側には何がある?―何も描かれていない面から生まれた不思議な紙の彫刻
シンガポールのSTPIで10月31日、韓国のアーティスト、ユ・ヒョンミ(Yoo Hyun Mi)の個展「The Blank Puzzle (The Image Yet to Come)」が始まります。きっかけは、作家が息子とジグソーパズルを組み立てていたときの発見でした。絵が描かれた表面だけでなく、何も描かれていない裏側にも意味があるのではないか。そんな発想から、1998年に始まったシリーズです。今回は、レーザーで切り抜いた紙や、手漉き紙を厚く積み重ねた立体作品、版画などを紹介。STPIの工房で培われた紙づくりの技術も作品に取り入れています。会場には、作品を平面と立体の両方から味わえる特別な展示空間も設けられます。
開催場所:STPI – Creative Workshop & Gallery(シンガポール)
会期:2026年10月31日(土)〜12月12日(土)
ここがポイント
ジグソーパズルは、完成した絵を正しく組み立てる遊びです。しかし裏返せば、どのピースにも絵がありません。組み合わせを変えても正解が決まらない世界になります。ユ・ヒョンミは、その「何もない」状態を新しいイメージが生まれる可能性として捉えました。さらに、紙を重ねることで木のような厚みを持たせ、平面と立体の境界も揺さぶります。身近な遊びから生まれた奥深い表現です。
参考:STPI「Yoo Hyun Mi: The Blank Puzzle (The Image Yet to Come)」公式案内
9|服なのに着る人がいない?―糸でつくった「生き物」のような彫刻がバルセロナへ
スペイン・バルセロナの現代美術館MACBAで11月5日、アウレリア・ムニョスの回顧展「Beings」が開幕します。1926年生まれのムニョスは、糸を結ぶ技法や刺繍、紙を使い、衣服とも彫刻とも決められない独特の作品を生み出した作家です。今回の展示では、大型のマクラメ彫刻や繊維作品60点以上、素描約200点に加え、これまでほとんど公開されなかった紙の造形などを紹介します。マクラメとは、糸を結び合わせて模様や立体をつくる技法のこと。作品には、自立するドレスのような形、鳥と凧を組み合わせたような造形、植物を思わせる構造などが登場します。身に着けるための布が、生き物のような存在へと変わっていきます。
開催場所:MACBA(スペイン・バルセロナ)
会期:2026年11月5日(木)〜2027年5月2日(日)
ここがポイント
布や糸は、身体を包むものとして使われることが多い素材です。しかしムニョスの作品は、身体から離れて自立し、まるで自分自身の意志を持つように見えます。糸を結ぶ作業を繰り返すことで、柔らかい素材から大きな空間構造が生まれるところも見どころ。手芸と呼ばれてきた技術が、彫刻や建築にもつながる表現だったことを実感できそうです。
参考:MACBA「Aurèlia Muñoz: Beings」公式発表(e-flux、2026年10月26日)
10|美術館から街へ出た彫刻家!―ピエロ・ジラルディの「みんなでつくるアート」を再発見
イタリア・トリノのPAVで10月31日、ピエロ・ジラルディの展覧会「From art to life」が開幕します。ジラルディは、人工素材で自然を再現した作品などで知られますが、今回取り上げるのは、その後に彼が選んだ別の道です。1970年代から1980年代にかけて、従来の美術市場から距離を取り、地域の活動や社会運動に参加。街の広場や集会で、人々とともに作品や行動を生み出しました。展覧会では、こうした活動から2000年代までの軌跡を紹介します。美術作品を制作して展示するだけでなく、人々が一緒に何かをつくる場そのものを芸術として考えた作家の姿が浮かび上がります。
開催場所:Parco Arte Vivente(イタリア・トリノ)
会期:2026年10月31日(土)〜2027年3月14日(日)
ここがポイント
芸術家の仕事は、自分の作品をつくることだと考えがちです。しかしジラルディは、一人の作家による完成品よりも、地域の人々が参加する活動へ関心を向けました。街頭での集会や共同制作を通じて、芸術を特別な場所から日常の中へ戻そうとしたのです。作品を所有できるかどうかではなく、人が何を経験するかを重視した姿勢は、現在の参加型アートにもつながっています。
参考:PAV「Piero Gilardi: From art to life」公式発表(e-flux、2026年10月26日)
11|子羊なのに半分は猫!―カフカの奇妙な生き物が巨大なドローイングになる
スペイン・ビルバオのアスクナ・セントロアで、アビゲイル・ラスコスの展覧会「Lamb, Half Cat, Almost Dog」が開催されています。会期は10月21日から2027年1月17日までで、10月26日に主催者による詳しい展示内容が発表されました。発想の出発点の一つは、フランツ・カフカが1917年に書いた短編『雑種』です。そこには、半分が子羊で半分が猫という奇妙な生き物が登場します。ラスコスは、この「異なるものが混じり合った存在」を手がかりに、ドローイングを絵画や彫刻、建築空間へ広げてきました。今回は2025年にサラマンカで展開した企画を再構成し、新作や未発表作品も加えています。
開催場所:Azkuna Zentroa – Alhóndiga Bilbao(スペイン・ビルバオ)
会期:2026年10月21日(水)〜2027年1月17日(日)
ここがポイント
子羊と猫が半分ずつ混ざった生き物は、絵に描けば不思議ですが、どこか親しみも感じられます。ラスコスは、そうした違和感を絵の中だけに閉じ込めず、線や形を展示室の空間へ広げます。描くことと、立体をつくることの境界まで混ざり合うのです。見慣れない存在を排除するのではなく、その曖昧さを面白がる視点は、カフカの物語とも響き合っています。
参考:Azkuna Zentroa「Abigail Lazkoz: Lamb, Half Cat, Almost Dog」公式発表(e-flux、2026年10月26日)
12|街頭説教はパフォーマンス?―信仰を映す7画面と、移動する人々を描くVR
カナダ・モントリオールのPHIで10月28日、二人のアーティストによる展覧会が同時に始まります。一つはジャン=フランソワ・ブシャールの「Turn or Burn」。アメリカの街頭で宗教的なメッセージを発する説教者たちと出会い、その言葉や身体の動きを写真と映像に記録しました。7画面を使う約10分の映像インスタレーションなどによって、公共空間で語ることと見せることの関係を問いかけます。もう一つはステファニー・コミランの「ANTHEMS」。映像、VR、繊維作品、3Dプリントによる造形を通して、国境を越える資本や移住の動きが人々の生活に与える影響を表現します。異なる手法から、社会を形づくる見えないつながりを探る企画です。
開催場所:PHI・407 Saint-Pierre Street/451–465 Saint-Jean Street(カナダ・モントリオール)
会期:2026年10月28日(水)〜2027年3月27日(土)
ここがポイント
街頭で誰かに向けて語る説教は、言葉だけでなく声の強さや身振りによって印象が変わります。一方、コミランは映像やVRを使って、遠く離れた人々の生活を近くに感じさせようとします。どちらも「人は何によって結びつくのか」という問いを持っています。ドキュメンタリー的な映像と没入型の表現を並べることで、同じ社会の別々の姿が見えてきます。
参考:PHI「Jean-François Bouchard: Turn or Burn / Stephanie Comilang: ANTHEMS」公式発表(e-flux、2026年10月26日)
13|舞台は2338年の架空世界!―小説の未来を手がかりに、12人の作家が現代を描く
スロベニア・リュブリャナのMuseum and Gallery MUZAで11月25日、展覧会「Karpa: Out of the Anonymity of the Contemporary」が開幕します。アルバニアやコソボ、国外で活動する12人の作家が参加し、記憶や帰属意識、社会との関係を作品にします。企画の手がかりとなったのは、アルバニアの作家マルティン・カマイが1987年に発表した小説『Karpa』。舞台は2338年、アルバニア北部の隔絶された架空の集落です。展示は小説の物語をそのまま再現するのではなく、時間や現実の感覚が揺らぐ世界観を創作の入口にしています。出展作品には、LEDと切り抜かれた文字、時間制御装置を組み合わせた作品なども含まれます。
開催場所:Museum and Gallery MUZA(スロベニア・リュブリャナ)
会期:2026年11月25日(水)〜2027年4月18日(日)
ここがポイント
未来を描いた小説を題材にした展示と聞くと、空想上の都市や機械を想像するかもしれません。しかし今回は、未来を予測するより、現在の自分たちが何を見落としているのかを考える企画です。小説がつくり出した不安定な時間感覚を、異なる地域や背景を持つ作家がそれぞれの方法で表します。一つの物語を全員で再現しないことも、表現の幅を広げる仕組みになっています。
参考:Museum and Gallery MUZA「Karpa: Out of the Anonymity of the Contemporary」公式発表(e-flux、2026年10月26日)
Museum and Gallery MUZAの公式発表(e-flux) →
14|聞き取れない言葉を専門家が再構成!―金融と政治の「見えない仕組み」を映像作品に
スイスのアッペンツェル美術館で11月15日、ガブリエラ・レッフェルの個展「The Grammar of Interstices」が開幕します。レッフェルは、金融会議や軍事演習場など、普段は入りにくい場所の仕組みを映像や音から探ってきた作家です。2024年の作品《Grammar of Calculated Ambiguity》では、国際金融に関する会議の録音から聞き取れない部分を取り出し、法律や政治、報道などの専門家が録音スタジオで分析・再構成しました。新作《for the record》(2026年)では、レバノンの銀行危機とスイスの金融制度との関係を題材に、架空の銀行をめぐる模擬裁判を映像化しています。現実の資料と演出を組み合わせ、複雑な社会の仕組みを見つめる展示です。
開催場所:Kunsthalle Appenzell(スイス・アッペンツェル)
会期:2026年11月15日(日)〜2027年4月11日(日)
ここがポイント
難しい金融の話を、図表や解説だけで伝えるのではなく、「聞き取れない音」や「架空の裁判」として表現する発想が特徴です。話す人の立場や、言葉を理解できるかどうかによって、同じ出来事も違って見えることがあります。レッフェルはその不確かさを、作品の中に残します。現実を単純化するのではなく、どのように情報がつくられ、伝わるかを考えさせる映像芸術です。
参考:Kunsthalle Appenzell「Gabriela Löffel: The Grammar of Interstices」公式発表(e-flux、2026年10月26日)
Kunsthalle Appenzellの公式発表(e-flux) →
まとめ
今日の14本には、完成した作品だけでなく、その作品が生まれるまでの方法に注目したくなる話題が集まりました。
全国を旅して廃材から絵の具をつくる画家、和紙を重ねて古い松の姿を表す盆栽作家、花の絵を手紙のように贈るアーティスト。現代の甲冑や軽い漆器も、受け継がれてきた素材や技術を別の角度から使うことで、新しい造形へと変わっています。
海外では、亡くなった人への思いを持ち寄る巨大な花の祭壇、ジグソーパズルの裏側から生まれた紙の彫刻、糸でつくられた生き物のような作品などが登場しました。さらに、街の活動を芸術に変えた作家や、文学、宗教、金融といった一見遠い題材を表現へ取り込むアーティストもいます。
共通しているのは、誰もが知っている素材や行為を、そのまま受け入れずに見つめ直していることです。絵の具、紙、糸、言葉、音。それらの使い方を少し変えるだけで、今まで見えなかった世界が立ち現れるのかもしれません。
